2012/2/10
●基本のやり方は変えない”くらいの信念を持ってやり続ける
──和歌山キャンプ(1月16日〜28日)から始動しましたが、チーム作りは順調ですか?
「選手の現在地をおおおむねつかめてきました。僕は甲府の選手の想像をして入ったわけではなく、あるがままを受け入れようと思っていましたから、意外というのはないです。ある意味、誰が新加入選手で誰が新卒で誰が昔から甲府にいた選手でという目で見ていないわけです。『この選手はこういう感じなんだ』というのは、甲府にもともといた選手かもしれないですし、新加入選手かもしれない。僕もそうですが、もちろんすべてにおいてパーフェクトな選手はいない。できることと課題がある中で、やれることを伸ばしてあげることと、課題を克服することに取り組みながらこのチームの成長をイメージできた部分はあります」
──今季の甲府はJ2で戦いますが、J1で戦っていたFC東京時代とは選手へのアプローチ方法も変わってくるのですか?
「サッカーであれば変わらないと思います。『J2は大変だよね』、『J2は特別でしょう』と言われますが、僕はU-17日本代表の監督時代に『アジアの最終予選を抜けるのは特別だから、良いサッカーをしている場合ではない』とよく言われました。ただ、僕はちょっとあまのじゃくなところがあって、『だったらつないでやろうじゃないか』と思ってしまうんです。J2を特別だとは思っていないですし、『サッカーはサッカーじゃないの?』と。『J2は特別な戦い方をするチームが多いから』と身構えるのではなく、自分たちのクオリティーに集中したい。J1のほうが攻めてくるからオープンな試合になるということは分かりますが、サッカーのルールが変わるわけではありません。主導権を握りながら相手のスキを突いてゴールを目指すことに尽きると思っています」
──相手の分析もしていくのですか?
「もちろん分析はしますが、僕らは分析される立場でいたい。FC東京時代にも言っていました。『G大阪が相手に合わせてサッカーを変えますか?』と。変えないですよね。本来はそうなりたい。そうなりたいですけど、最初から僕らにその力が備わっているわけでもなく、実績があるわけでもない。相手のことを意識しながら準備をすることは必要です。ただ、それも自分たちのサッカーがあってのこと。相手の良さを消す部分が上回ることはない。自分たちのやるサッカーの割合を多くするのは自分の理想でもあります。マイナーチェンジはバルセロナであっても毎試合やっています。われわれも時間を割いてやらなくてはいけないときもあるかもしれません。ただ、“基本のやり方は変えない”くらいの信念を持ってやりたいと思っています」
──FC東京の監督時代に掲げていた“ムービング・フットボール”とは、選手も異なりますから完成形も異なってくるのですか?
「どうしても『人とボールが動く』という言い方が先行してしまいますが、それより先、一番にあるのは、『感動させる』ということ。見ている人を感動させるには選手が楽しまなければならないという論法なのですが、結局、選手が楽しいのは何かと言うと、『成長を感じている』ことだと思います。自分自身やチームが『強くなっている』とか『うまくなっている』ということを感じられる集団かどうか。『到達点がどこ』という言い方よりも、FC東京はFC東京なりの、甲府は甲府なりの成長を感じられるような集団になること。もちろん、つまずくときもあるかもしれませんが、トータルで考えたときに『オレら成長したよね』と思えることがムービング・フットボールの一番の基本です。イコールでそれがお客さんを感動させることにつながると思っています。人とボールが動くというのは、『兼ねていますけど』くらいの話ですね」
●昇格への一番の近道は、個人やチーム自身が成長すること
──選手の成長とJ2昇格は違う意味になるのですか?
「すべての試合で結果が約束されない中で、成長を信じることや感じられることを大事にしたい。結果だけで成長を実感できる集団にはならないようにしています。そうは言っても、結果はすごく大事な要素です。成長を感じられたから昇格しなくていいというわけでは決してない。ただ、成長なくして昇格はありません。『昇格できるなら何でもいい』と言うなら、逆に『そんな近道はあるの?』という話になってくる。僕は個人やチームの成長なしに近道はないと思っています。『誰が成長させてくれるの?』と言ったらわれわれや選手自身で成長するしかない。そういうふうにナビゲートするしかないですし、誰も何も助けてはくれない。自分たちで勝ち取ったときこそ本当に楽しいと思える。そしてそれが感動を与えると思います。U-17日本代表やFC東京のときの成功体験は僕の中にあります。でも、『二度と同じ轍を踏まない』と思う経験もあります。それをうまくミックスさせていきたい。なぜうまくいかないときがあったのかは、自分の中で分析はできています。その経験をしっかり生かせればいいなと思っています」
──J2は工夫を凝らす個性ある監督が多い気がします。
「JFLからの参入組が象徴的で、すごく経験のある監督が多い(町田:オズワルド・アルディレス監督、松本:反町康治監督)。もちろん主役は選手ですが、監督としても思うところはあります。互いの監督がライバルで、J1へ打って入りたい気持ちは強い。J1の監督とも対等以上にやるつもりでトレーニングやチーム作りをしています。J1を見据えていると『J2をおろそかにしている』と言われるかもしれませんが、そうではなくそういう気概でやらないとJ2は戦い抜けない。J1へ昇格した暁に、『J1常連チームの中に割って入る』くらいの気持ちで、そのための“いま”なんだ、と。それでも戦い抜けるか分からない。そのぐらいの高い志がないとJ2で戦い抜くのは簡単ではないと思っています」
──その可能性が甲府の選手にもあると感じていますか?
「J2を見ていると、どこのクラブも均質です。例えば北九州はJ1から期限付き移籍で選手をうまく獲得して、戦力をそろえています。甲府は十分に可能性があると思っています。ただ、明らかに抜けている存在でもない。プロビンチアのクラブでもあります。昨年末の補強合戦のとき、大企業のスポンサーが付いているJ2クラブには『そんなにお金があるんだ』ということを痛感しました。だからこそ絶対に負けたくない。僕ら現場は闘志が湧いてきます」
──補強は監督がやりたいサッカーをイメージしつつ進めたのですか?
「イメージしたからと言って、ウチの倍の条件提示をしてくるJ2クラブがあるわけです。そんなに簡単ではありません。ただ、その中でも獲得したメンバーは『彼らとだったらやれる』と思える選手たちでした。何よりも僕の立場は、『この補強は何点』と点数を付けるのが仕事ではない。これが満点だと思って、そういうチームにしていくのが僕の仕事でもあります。『結果的に満点だったよね』とクラブ関係者が思えるようにしていくのが僕の仕事です」
──補強で狙っていたところはあったのですか?
「強化部がどの選手と契約更新しない、誰が出て行くというのは僕の力の及ぶところではありません。新卒で入る選手も(就任前に)決まっていました。どこのポジションが薄いと相談している間に他クラブの誰がどこに決まった、という話になっていくわけです。その現状を踏まえて、このポジションは絶対に必要という部分は相談しながらやっていました。若い選手をそろえたいという意識もありましたが、チームの成長の手助けになるのであれば、年齢は関係なかった。だからベテランも獲得しましたし、チームにプラスをもたらしてくれると思える選手を獲りました」
──今季は多くの選手が入れ替わりました。過去の経験を踏まえながら指導しているのですか?
「いいこともそうでないことも踏まえないと経験ではない。ただ、この新しい集団はいろんな過去があっていろんなキャラクターもいるので、同じテキストはないわけです。まったく新しい組み合わせですし、シチュエーションも昇格と降格を繰り返しています。そういう意味では『これはこのパターンか』というのがない。自分の経験の引き出しを探りながら、僕もチャレンジしている最中です」
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